第20章 悪戯には程遠い【刀剣 一期一振】
慌て出ていった一期の態度に、キョトンとする今剣と愛染。
彼らとは対照的にやけに大人びた顔をした薬研は、
「入れ替り立ち代わりになると大将も大変だから、まだ貰ってない奴等も呼んできてやれよ」
と、二人を執務室から出した。
「はーい」と二人が出て行った後、薬研は口を開く。
「大将。一兄が悪かったな」
「ううん」
目撃したのが、彼等でよかったのかも…。
それこそ、長谷部とか、加州とかに目撃されていたら…
今頃、抜刀ものだったかもしれない…。
「手首、診せてくれ。大丈夫か?」
そう言う彼に、先程捕まれた手首を差し出す。
「一期は悪くないよ。からからった私が悪い…からね」
「まぁ、大丈夫そうだな。なぁ、大将。こんな事はあまり言いたくないんだが、俺っち達は少なからず元の主の影響を受けるんだ。ほら、包丁とか、な…」
苦笑いに加えて、珍しく言葉に詰まるのは自分の兄弟を引き合いに出す複雑さからだろう…。
確かに包丁は前の主の影響を受けすぎるくらい受けている。
私が人妻ではなくがっかりさせたのは記憶に新しい。
たまらず同じ様に苦笑いを返せば、
「一兄の元の主は誰なのか思い出してみな」
と、薬研の言葉。
彼の元の主…。
それって豊臣秀…。
「あっ…」
「わかったか?普段は良い兄だけどな。気を付けた方がいいぜ」
えらく男前に、
でも少し困った様に微笑む薬研の忠告に、
私は年甲斐もなくコクコクと頷くしかできなかった。