第19章 どうか、微笑みを【刀剣 小夜左文字】
執務室の窓から白い雲が浮かぶ青空が見える。
意味もなく、流れる雲に問いかけてみた。
「何で来ないんだろう??」
江雪はともかく、宗三はそろそろ部隊が連れて帰って来てくれてもおかしくない頃だ。
なのに…
なのに…
「あーるじー‼」
そんな事を考えながら入力作業の手を止めていると陸奥守の叫ぶ声が聞こえる。
「どうしたの?」
障子窓を開けて、ひょこりと顔を出せば、
見慣れた第一部隊の中に見慣れない桃色の髪を見つけた。
あれって…
もしかして…
ピシャリと障子を締めて、駆け出す。
「小夜ー‼」
「小夜。小夜どこー?」
本丸内にバタバタと響くのは私の足音だ。
「ちっとも雅じゃない」と、また初期刀のお説教を受けるかもしれないけど気にしない。
今はとにかく、小夜に。
小夜に会わせてあげなきゃ。
その一心だったから私は前をよく見ていなくて、
曲がり角で誰かにぶつかってしまって、
それでも『行かなきゃ』と駆け出そうとすると、
そのままぶつかった人物に確保され、
まるで丸太のように抱えられた。
「まったく、せっかちな主じゃのう…」
「陸奥守‼主にそのような事を‼」
宙に浮く手足をバタバタともがけば、
陸奥守のため息と、長谷部の怒鳴り声が聞こえる。
「ちょ…おろして」
「小夜を部隊に入れたんはおまんじゃろが?」
「あ…」
そうだった。
小夜も出陣してたんだった。
目の前には仲良く手を繋いで並ぶ兄弟の姿。
そして、呆れ顔の第一部隊の皆さん。
「小夜、よかったね。宗三さん、よろしくね」
未だ、陸奥守に抱えられたままの状態という何とも情けない姿だったけど、
それでも、宗三は「えぇ」と短い返事をくれた。
「兄様…」
小夜が宗三の袖を引く。
先日の大人びたぎこちない笑みとは違い、
彼のはにかんだ微笑みはとても可愛くて、
ついつい、ぎゅうっと抱き締めたくなってしまった。