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いとし、いとし【短編集】

第19章 どうか、微笑みを【刀剣 小夜左文字】


「早く、兄様に会いたい…」



朝食の時間に初鍛刀である小夜がポツリと溢した。



隣に座る彼が瞳に映すのは、
服にお茶を溢してしまって泣きそうな秋田を、兄である一期が宥めながら拭いているという兄弟の微笑ましい光景。



一期一振…

そう…

昨日、わが本丸に一期一振がやって来た。

そりゃ、もう、
粟田口の兄弟達は大喜び。

なんなら私自身も、
まさかまさか一期が来るなんて思わなくて、本来の目的を忘れて喜んだ。

そして、一通り喜んだ所で小さくなる小夜を見つけてハッとした。


そうだ…

本来は江雪左文字を呼ぼうと思って使った富士札だった…


気まずさを隠しきれない私とは裏腹に、
小夜の対応はとても大人で、

「よかったね」と微笑んでその場を去って行った。



その微笑みがとてもぎこちなくて…。



夜になると、「声が聞こえる…」と怯えたように身体を縮める小夜。


子どもらしく泣きじゃくる訳ではなく、必死に涙を耐える姿を見つけてからは、

彼のお兄さん達を早く迎えてあげようと思った。
そして、お兄さん達が来るまでの間、夜は小夜が寝付くまで側に居ることにした。


小夜の望みを叶えてあげたいと思うのに、


私の鍛刀運の無さからなのか、
左文字に縁がないのか、
いっこうに彼のお兄さん達は顕れてくれない。


「ごめんね。小夜」


「ううん。僕もごめん…わがままだね」



悲しく顔を伏せる姿に、胸が痛かった。




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