第17章 私は『主』【刀剣 へし切長谷部】
きっと、彼は。長谷部は…
私が『恋仲に…』と言えば、
気持ちに答えてくれるんだろう…。
でも、
それは、
忠義からくるものだ。
家臣として、
主に仕える者として、
主からの命として、
私の気持ちに答えるんだろう…。
私は勘違いしてしまったのだ。
彼の…
細やかな気配りは、
頼りになる行動は、
私を喜ばせてくれる言葉は、
『主』に向けられたものであり、
『結依』である私に向けられたものではないのに、
それを勘違いしてしまったのだ…。
「主、長谷部です。資料をお持ちしました」
障子戸の向こうから長谷部の声がする。
さすが、長谷部。
先程頼んだ資料をもう持ってきてくれた。
「入って」
そう、声を掛ければ、
「失礼します」
と、障子戸が開く。
「さすが早いね」
「いえ。主からの命ですから。当然です」
長谷部はどこまでも家臣だ。
忠義を尽くす人だ。
だったら私も…
「いつも、ありがとう」
貴方の好きな『主』として貴方の前に立っていよう。