第17章 私は『主』【刀剣 へし切長谷部】
「主命とあらば…」
今日も長谷部はそう言って、私が頼んだ仕事を引き受けてくれた。
『出来れば主のお側に…』
顕現して間もない頃、長谷部にそう言われて、
彼の前の主の事を考えるとなんだか断り切れなくて、
今では近侍の仕事は、ほぼほぼ彼の専属となっている。
もちろん、不満が挙がらない訳じゃない。
特に初期刀で長谷部が来るまでは近侍を勤めてくれていた加州は不満をタラタラと漏らした。
でも、近侍の仕事をしなくなった分、彼には身形を整える余裕が出来て、
なんなら、私自身も長谷部の働きによって執務室に籠らなければならない様な時間も減って、
結果…
皆のおねだりに答えらるようになって、
ふてくされる加州の爪を塗ってあげられるようになったし、
『遊んでくださーい』と寄ってくる短刀ちゃん達と思いきり遊ぶ余裕も出来たし、
手合わせを見に行ったり、
男子達と何でもないお喋りをしたり、
今までは歌仙や燭台切に任せきりだった厨に立つこともできるようになった。
本丸の主として戦の指示を出すだけでなく、
早瀬結依である一人の人として、彼等と接する時間が増えたのである。