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いとし、いとし【短編集】

第13章 生まれ変われるなら…【krk 笠松幸男】


「かさま…」


「悪かった」



ガバリと衣擦れの音がして、視界がブルーに染まった。

突然の事過ぎて、私の思考は追い付かない。



「俺の完全な八つ当たりだ。お前は悪くない。本当に悪かった」


「あ、あの…笠松?」


混乱する頭で私が呼び掛けると、抱き締められている腕にぎゅっと力が加わる。


「もう、やめろよ。その呼び方。悪かったよ。俺がガキ過ぎた」


「…」


「結依。お前が退部してからいろいろ後悔した。俺は、お前に甘え過ぎてたんだと思う。俺が何したって、言ったって、お前はガキの頃みてぇに一緒に居るもんだって思ってたんだ。居なくなってわかった…」


堂々と淡々と語っているように見えるけど、私を抱きすくめる腕は少し震えている。

幸男…。

ごめんね。ありがとう。



「もう、いいよ。大丈夫。私もごめん。無神経だった。また…さ、元に戻ろ?ほら、前みたいに兄弟みたいに…」


首だけ動かして顔を見上げると、幸男は静かに目を閉じて首を横に振る。


「元に戻る気はねぇよ」


発せられた言葉と共に、押し寄せる不安感。

これは、仲直りだったんじゃないんだろうか?

一度、壊れた関係はやっぱり修復不可能という事なんだろうか?

下を向きそうになる私を「結依」と呼ぶことで幸男が引き留める。


かち合った視線に見える瞳は吸い込まれそうな程、真っ直ぐだった。




「結依。お前が…好きだ」





聞こえて来たのは予想もしていなかった言葉。


「負け試合の後に言うなんてダセェけど…。これからも、一緒に居てくれ。頼む」


その言葉に、涙が溜まる。

だって…
だっ、て…


上手く言葉が出なくて、コクリ、コクリと頷いて、幸男の背中に手を回した。


ジャージをぎゅっと握りしめて、ゆっくりと息を吸い込む。



「わ、私も…幸男が好き」


やっとの事で発した言葉。




もしも…

もしも生まれ変われるなら…


ううん。もしも生まれ変わっても、


やっぱり…
私は、こうして幸男と一緒に居たい。






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