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いとし、いとし【短編集】

第12章 私だけが知らない【krk 花宮真】


「おい。行くぞ」

花宮先輩が教室を出ようとしても、原先輩は動こうとしない。

それどころか、私の顔を覗き込む様に身体を屈めた。

反射的に下を向く。


前髪で隠れた目元。

表情がわからないし、
何を考えているのか読み取れないし、

正直…苦手。

素行もそんなに良くないらしい。

こんな人がバスケ部に居るから、悪い噂が流れるんだ。

花宮先輩はあんなに素敵なのに…

「ねぇねぇ」

呼び掛けられて、顔をあげた。


「俺と早瀬ちゃんじゃ、全然、態度が違うと思わない?」

なんて、問いかけられて、首を横に振った。


「…男同士って、こんな感じなんじゃ…」



「ははっ‼ここまで言って気づかないとか、本当にバカだねぇ。こん中、ババロアでも詰まってんのー?」


そう言って、ぐしゃぐしゃと私の頭を撫でる。


「花宮って、本当は…」


しゃべり続けようとする原先輩の言葉を遮って、

『止めてください』

と、頭の上にある手を払おうとした時、


「やめろ。原」

という、花宮先輩の声が教室に響いた。

何故かゾクリと背中に悪寒が走る。

いつもよりも低い声はあきらかに怒りを纏っていた。




「ハイハイ。ごめんねぇ」


わざとらしく両手をあげて距離をとる原先輩。


「まぁ、いいんじゃないの?そのまんまで。バカな女がタイプらしいし」

そう、言われて急激に頬が熱くなる。


タイプって…。

確かに私はバカだけど…期待してもいいのかな?


ちらりと花宮先輩に目を向ければ、


一瞬、見たことも無いような顔でニヤリと笑った。

でも、すぐにいつもの顔に戻って、

原先輩の言葉はスルーして、

「悪かったね。じゃぁ、また」

と手をあげて、

教室から去っていった。



あの、悪寒は何だったんだろう?

でも、最後はいつもの花宮先輩だったし…

そうだよ。花宮先輩は私を助けてくれる良い人だもん。

優しい人だもん。

ニヤリと笑った気がしたのはきっと、私の気のせい。




そんな事を考えながら、残りの課題をこなすべく机のプリントへ目を向けた。



『花宮って、本当は…』

原先輩が言いかけた言葉の続きは、

私だけが知らない。





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