第10章 雄弁な瞳【krk 水戸部凛之助】
無意識のうちにうつむいていたらしい。
眉を下げて、私の顔を覗き込む水戸部くん。
思いの外近くにある顔の距離に、思わず後退りをした。
「ご、ごめん。何でもないから。何でもない」
尚も眉を下げる彼に、「本当に何でもないよ」と笑って見せるけど、あまり納得してないようだった。
隣に並んで歩いていたのに、いつの間にか向き合う形で足が止まっていた私達。
彼と目を合わせるのがなんだか気まずくて、また、下を向くと、
大きな手が私の左手を取って、両手で挟む様に優しく包みこまれた。
彼の手はちょっとだけ震えている。
「水戸部くん?」
顔をあげると、水戸部くんは少し悲しそうな顔をしていて、
それでも、吸い込まれそうなくらいに真っ直ぐ私を見る瞳からは、
「何かあったの?」
「俺に話して?」
「俺じゃ力になれない?」
と、次々と言葉が溢れてくる。
私は水戸部くんの何を見ていたんだろう。
yesとnoだけじゃない。
彼の瞳はこんなにも雄弁に言葉を発していたんだ。
今まで気がつかなかったなんて…。
「………。(どうしたの?)」
再び覗き込まれて、
無言で問いかけられた言葉にちょっと勇気を振り絞って聞いてみることにした。
「水戸部くん。私の事好き?」
ボンッという音をたてる勢いで顔を真っ赤にした彼から、
あの時と同じように、
コクリと大きく頷く返事が返ってきた。