第1章 不安と心配と【krk 木吉鉄平】
「そんな事、言うなよ」
「鉄…平…。ごめん。聞こえて…」
私の言葉を遮るように鉄平が首を横に振った。
「結依に心配かけてるのはわかってる。それでも俺は、皆とバスケがしたいんだ」
ありすぎる身長差を補うように、
一歩下がって、
ちょっと屈んで、
私の目を見て話す鉄平の目は真剣だ。
「あいつ等と約束したんだ。だから、俺はバスケを続けたい。それを結依に分かって欲しいんだ。それで、側で応援して欲しい」
「鉄平…。でも、私…」
言おうとした言葉は、また、鉄平の目に遮られた。
「なぁ、結依。応援してくれよ。おまえの応援があれば俺は日本一になれる気がするんだ」
この男はずるい。
だって、そんな風に言われたら、私は頷くしか出来ないから。
【鉄平に必要とされてる】
それだけで、先程の不安や黒い感情が消えて、幸福で満たされてしまうようなバカな女だから。
だって、それくらい鉄平が大好きだから。
「…うん。わかった。頑張ってね」
少しの沈黙の後に私が出した答え。
それに応じるように
鉄平が一歩近づいて、大きな手のひらで頬を包んだ。
突然の事に、ぎゅっと目を瞑ると、
チュッと言う音を立てて、額に唇が当たる。
「ちょっ…。鉄平。ここ、校門…」
当の鉄平は、私の焦りなんてお構い無しで、その長い腕で私を抱きしめる。
「ありがとうな」
頭上で囁かれた言葉に、腕の中で小さく頷くと、
「だから、他所でやれって言ってんだろうが。ダァホ!」
と言う日向くんの声。
私達は、いつの間にか集まっていたバスケ部の皆と帰宅を共にした。
眉間に皺を寄せて青筋を立てる日向くんの隣で、にへらと笑う鉄平を後ろから眺めて、諦めのため息を吐く。
仕方ない。
私は、この男が、
木吉鉄平が、大好きなんだ。
鉄平から離れられるわけない。
鉄平を諦めるなんてできない。
まだ不安が消えたわけではないけれど、今はとことん、この男に付き合おう。
見上げた空は
夕陽が落ちて、
藍色に染まりはじめて、
なんだか、清々しいくらいに、
とても綺麗だった。
後日。
リコちゃんの料理が壊滅的だと聞いた私が、バスケ部の合宿のお手伝いを申し出たのは、また別の話。