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いとし、いとし【短編集】

第6章 キスの変わりに【krk 森山由孝】


「なぁ、早瀬」

と、森山に呼び掛けられる。


「何?」


「女の子ってさ、こうゆうのされるとやっぱり嬉しいの?」


先程の雑誌に目線を落としたまま、

「運命のあの子との将来の参考までに聞いておきたいんだ」

なんて、森山は笑う。


その無駄に整った顔に、ドキリと心臓が跳ねた。


本当…森山のくせに…。


ってか気づいてよ。バカ。

そんな雑誌見てないで、こっち見てよ。

私は何年、あんたを見てると思ってるんだ。

あんたの運命はいくつある?

あと何回、あんたのナンパの失敗を願えばいい?




可愛い子には見境なく声を掛ける森山だから、

私にそんな気が無いのなんて分かってる。



分かってるから、一歩を踏み出せなくて、
いつまでも、友人止まりで…。




「そんなの知らないよ。だいたい、相手も意味を知ってなきゃ、嬉しい以前に伝わらないでしょーが」


可愛いげのない答えを返した。


「まぁ、早瀬に聞いてもな…」

と、森山はため息を溢す。

「男なんかに興味なさそうだもんな。彼女が居るって言われても驚かないぞ。もっと女の子らしくしてみろ。早瀬は素材は悪くない‼」


好きな相手にそんな風に言われて、
悲しくない女がどこに居るだろう。

異性で一番近いという自信があったのに…。


近すぎて対象外になってしまっていた事に気づかなかった。

森山への気持ちに気づいてから、5年間。

友達関係を壊したくなくて、うだうだと過ごしてきたのは他でもない自分。

もっと早く自分の気持ちを伝えていれば、

少しは違ったのかもしれない。



「うっさいわ‼」


自分の意気地の無いのを棚に上げて、

森山が思い浮かべている運命のあの子への妬みを込めて、


バシン‼と森山の腕を叩いた。


キスの変わりと言うには、あまりにも可愛いげがない。

やはり私は、可愛いげがない。



「いってぇ‼」




その痛みと共に思い知れ森山。


私が拗らせた、5年分の片想いを…。



森山が読んでいたページに書かれていた、

腕へのキスの意味は…


恋慕。



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