第5章 彼女の知らない場所【krk 青峰大輝】
彼はいつもここに居たんだ。
さつきちゃんが探しても、見つからないわけだ。
「おまえ、いつもさつきと居るヤツだろ?えっと…誰だっけ。あぁ、結依」
「そうだけど…。えっ?名前…」
名字でなく名前で呼ばれた事への、戸惑いと嬉しさでぐちゃぐちゃになって、つい、口から出てしまった言葉。
青峰くんは少しばつの悪そうに頭を掻く。
「さつきから、おまえの話聞かされんだよ。さつきが呼ぶから名前知ってるだけで、名字は知らねぇよ」
「そっか…」
なんとなくわかってたけど、さつきちゃんの影響だよね。
私に興味があるわけじゃないよね。
そうだよね。
ぬか喜びに、小さく肩を落とすと、
「こっち上がって来いよ。サボるんだろ?そこは、さつきに見つかるぞ」
という、まさかのお誘い。
コクリと頷いて、給水塔に架かる梯子に手を伸ばした。
一番上に差し掛かると
「んっ」
と、大きな手のひらが出される。
ヤバい‼ヤバい‼
さつきちゃんの影から眺めているだけだったのに、いきなりの急接近。
ドキドキしすぎて心臓に悪い。
それでもなんとか、
「ありがとう」と手のひらを伸ばして、
彼に給水塔の上へ引き上げてもらった。
「これで、おまえも共犯だからな。この場所、さつきに言うんじゃねぇぞ」
引き上げられたと同時に、彼から発せられた言葉に、再びコクリと頷く。
さつきちゃんもまだ知らない場所。
二人だけの約束。
今の私には、これだけで充分すぎるくらい充分。
そう思いながら、いつもはさつきちゃんがいる彼の隣に、静かに腰をおろした。