第1章 不安と心配と【krk 木吉鉄平】
「ほら、おいで」
広げられた両手にいくらか戸惑った。
これは、ここに飛び込んでこいと言う事だろうか?
この男は、ここが何処なのかわかっているんだろうか?
案の定、「『おいで』じゃねぇよダァホ‼いちゃつくんなら他所でやれ‼」という日向くんの声が体育館内にこだまする。
「はぁー…」という、リコちゃんのため息が聞こえる。
「お邪魔…します」
バスケ部員ではない私にとって、アウェー感満載の体育館におずおずと足を踏み入れれば、思いの外、バスケ部の皆は歓迎してくれた。
練習の邪魔にならないように、体育館の隅っこに座り込む。
私をここへ呼んだ張本人は、
つい先日まで入院をしていたとは思えない程の動きで練習をこなしていた。
そんな彼を見て不安になるのは彼女として当たり前の事。
彼が…鉄平が、バスケを大好きなのは知っている。
日本一を目指して居ることも、
どんな決意で、この体育館に戻って来たのかも…。
それでも、やっぱり…
私にとっては、
鉄平が言う、チームメイトとの約束だの何だのよりも、彼自身の方が大切で。
完治していない身体で無理にプレーをして、今後どうなってしまうのか…
それだけが心配で…
ぐるぐると巡る思考の中で目に入るのは、笑い合う鉄平とリコちゃんの姿。
自分を覆いつくす、黒い感情に気づく。
「私よりお似合いかもしれない…」
小さく小さく呟いて、抱えた膝に顔を埋めた。
リコちゃんなら…
私より、
鉄平の気持ちを分かってあげられる、
鉄平を支えてあげられる、
『もう、バスケはやめて』なんて
つい、口走りそうになることもないだろう…。