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いとし、いとし【短編集】

第40章 春、ひらく。【刀剣 太郎太刀】


「……おや。現世に呼ばれるとは。私は太郎太刀。人に使えるはずのない実戦刀です」


霊力を込めて、彼を呼ぶ。

現れた男士は、本体と同じでとても体格が良く、そして美しい刀剣男士。

初めて、宝物館で刀を見た時と同様、私は彼に心を奪われた。

なんとも、神々しい。



「すえの…じゃなくて、太郎太刀さん。私がこの本丸の主です。よろしくお願いします」


「おや?すえのとは、現世の私をご存知ですか?」


あまりの神々しさにあてられて名前を間違えてしまい、慌てて言い直したけれども、どうやら聞こえてしまったらしい。

不快にさせてしまっただろうか…

「お名前を間違えるなんて失礼をしてすみません」

私が頭を下げれば、



「おやめください。いいんですよ」

と、彼は私の肩に触れる。



「主は、私をご存知なのですね?」


少し屈んで顔を覗き込む彼。

綺麗な顔が、美しい髪が、先程よりも近くにある。

ドキドキする…。


「はい…。私、生まれも育ちも太郎さんが居た街で…。あの神宮に、よく太郎さんを見に行っていました。こうしてお迎えできるなんて嬉しいです」

私が笑いかければ、

「そうでしたか。それはそれは。私と主は同郷なのですね」


と、優しく微笑む彼。


これは、なんだろう…

ふんわりと温かさが広がる胸。
そこに手を当ててみる。

トクトクと心臓の音がする。


まるで、初恋の人に出会えた様な…

そんな幸せな気分だ。


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