第37章 かみさまとのやくそく【刀剣 五虎退】
父の本丸を受け継いだ。
幼い頃はよくここへ通い、『おひい様』と呼ばれながら親しんでいた本丸。
思春期と共に足は遠退いてしまったけれど、
父が私に後を継がせたい旨を常々口にしていたらしく、
古参の男士達を中心に、私は新たな主として温かく受け入れられた。
「主が参られたぞ」
父の近侍であった長谷部さんの出迎えを受け、本丸内を案内される。
案内なんて要らないけどな…とも思うんだけれど、
『この長谷部にご案内させてください』
と、こんな二十歳に満たない小娘に深々と頭を下げて下さるので聞き入れるしかなかった。
因みに、『「さん」も敬語もお辞めください!』と怒られた。
すれ違う男士達は見覚えのある者から、はじめましての者まで。
粗方の案内を終えて執務室へ向かう中、廊下の端に見えたのは一番会いたかった男士。
ふわふわの白い髪。
小さめの背中。
刀を扱うには心許ない細い手足。
あれは…
「ごこ!!」
幼い頃に呼んでいた名を呼び掛ければ、バッと彼が振りかえる。