第27章 封印魔法は彼の言葉【krk 高尾和成】
目の前に影が出来た。
顔を上げると、見えるのはちょっと心配そうな顔。
「どうした?」
言葉と共に彼がしてくれた、人指し指を立てて左右にふる仕草は、私が主に使っている言葉。手話。
だいたいの会話は、
私が高尾くんの唇を読み取ったり、
高尾くんが私の手のひらに指で書いてくれたりしている。
私は、頷いたり、首を振ったり、何かに書いたりする事で返事を返す。
でも…
先日、彼が手話を覚えると言い出した。
『もっと、結依と話したいじゃん』と、
『俺、結構器用だから大丈夫』と。
『おはよう』
『どうした?』
『大丈夫』
『ありがとう』
『ごめんね』
この2日で彼が覚えてくれた5つの言葉。
『だ、い、じょ、う、ぶ』
彼からの問いに私は口の動きと共に右手で自分の左右の肩をトントンと叩いた。
【何にもないよ】と、机の上にシャーペンで書き記す。
「そっか」と、笑う彼。
ぐしゃぐしゃと頭を撫でられる頭。
私達の様子を、クラス中が見ているのがわかる。
ザワザワと、
ヒソヒソと、
皆の言葉が見てとれる…。