第26章 明日の予定はもういらない【krk 火神大我】
「明日、予定あるか?」
昼休みにトントンと机を小突かれ、お弁当箱を持ったままそちらを見ると、
隣の席のデカイのにそう問いかけられた。
「え?明日?」
私が聞き返すと、彼は長い腕を少し伸ばして、私のお弁当箱からおかずを一つ摘まむ。
「あっ、私の唐揚げ‼」
「前から思ってたけど、お前の弁当、美味そう」
こちらの了承も得ず、パクリと唐揚げを頬張り、もぐもぐと咀嚼する火神。
そんな彼に「もぉー!」なんて抗議をしながらも、実は『美味そう』なんて言われて悪い気はしないのも事実である。
「当たり前でしょ?私が作ったんだから」
小さな頃からママとキッチンに立つのが大好きで、料理だけは自然と身に付いた。
平々凡々な私の、唯一の武器なのだ。
「ふーん。お前、料理好きなのか?」
「まぁねー」
得意気にふふんと鼻をならせば、
頭にぽんと手のひらが置かれて、
また一つ、私のお弁当からおかずが消える。
「あっ、卵焼き…」
「やっぱ、美味いわ」
ニカリと笑う顔が体格に似合わず、無邪気で可愛い彼。
平静を装うけれども、
私は火神のこの笑顔がたまらなく好きなのだ。
ごくりと口の中のものを飲み込むと、
「なぁ、明日の放課後空けとけよ。オレ、お前に話あるから…」
そう言い捨てて、彼は立ち上がった。