第25章 男同士の会話なんてそんなもの【krk 小金井慎二】
「ねぇねぇ、食べようよー?」
トレードマークな元気印はどこへやら…
クラスメートが出払った教室内で、
日直の仕事の一つである日誌を書いている私に
眉をさげて、捨てられた猫みたいな顔をしながら、水戸部が作ったクッキーを私に差し出す彼。
そんな事したって、無駄なんだ。
私はダイエット真っ最中だ。
数日前…
親の目を盗んで慎二と恋人同士の甘いひとときを過ごした翌日、部室での皆の会話を聞いてしまった。
部員達が私とリコの体型をくらべていて、
それで…
彼が、
私はフニフニしてるって言っていた。
そりゃ、誰がどう見たってリコのが細いのは分かるし、事実だけど…
そんな事…
しかも翌日に、彼氏である慎二から皆に公表されるなんてショックだったし、
それに…
現役でスポーツをしている引き締まった身体の慎二に比べて、
選手をやめてマネージャーに変わった自分の体型がだらしなく変化しつつあるのは、よくよく感じていた。
だから、これを期にダイエットを決行する事に決めたんだ。
もう、フニフニなんて言わせない‼
「ねぇ、まだ気にしてる?本当にごめんって。太いって言いたかった訳じゃなくてさ…。ダイエットなんて必要ないって。ほら、水戸部のクッキー美味いよ‼」
「要らない。私は食べない。せっかく痩せてきてるの‼邪魔しないで‼」
「でもさ…」
目の前で繰り広げられる痴話喧嘩に、慎二以上に眉を下げた水戸部がオロオロと何か言っている。
「……。」
「水戸部も食べないのは身体に悪いって言ってるよ」
「ご心配ありがとう。食べてないわけじゃないから大丈夫」
「あんなウサギみたいな食事じゃダメだって‼」
ダイエットをはじめて数日間、あの手この手で慎二は必死に止めるけど、
私には私の意地だってある。
彼氏に『フニフニだ』なんて言われた手前、どうしても、なんとしても痩せてやりたいのだ。