第1章 彩華。
「それに、私は死にませんよ、瑠花⋯」
千代、お前は他の世ではこのバカ王の為に走り回り愛し怒鳴り散らし慕い正義と呼ばれるものになろうとしてきた。
「今迄の功績を讃え、妾が手を貸そう⋯千代⋯」
気を失い倒れる千代は、随分とか弱く見えた。璃桜に言われていた言葉を思い出す。
決して抜け出せぬ定。
どれだけ強くこころを持てば⋯
「千代様は!えっ、あ、あなた様は」
「む?」
「羽羽、千代をこの世界に閉じこめよう」
瑠花の言葉に目を疑う。
「それは⋯」
「縹家の弱者救済はここからじゃ」
二人の男は目を見開く。
千代は気を失い、瑠花は涙を浮かべていた。いつか、同じく心が病むなら、もしも、蝕んで来ているというのなら、それを阻止しよう。
この世に閉じ込めよう。
人としての死を失わせよう。
彼女が何にも縛られず自由であるように。
貴陽の羽羽宅ではバタバタとしていた。
なんせ、珍しく三人もの来客だ。
一人は縹家の瑠花姫、一人は瑠花姫のお付、もう一人は王ときた。
屋敷はてんやわんやになっていた。
「何故お主まで付いてくる」
「⋯俺が拾ったんだ、良いだろうどうしようと」
瑠花はイラっとしたが、優しい瞳を向ける王にため息をつく。
この王はどうしようもない。
あぁ、もう手遅れなんだと。
守ることはしない、けれど⋯
「この娘は誰だ?」
「妾の付き人じゃ」
「⋯」
そんなことを聞いているわけじゃないと言い出しそうな顔に瑠花はフンッと鼻を鳴らし、優しく千代を撫でる。
「お前の唯一の官吏だろうに」
サラリと前髪が流れると千代はぐずり、ころんと横になる。