第4章 彩花。
客間には準備を終えた客人が揃っていた。そろりと、月に下ろされ足を床につけると上着を着せられる。
「そのままで充分だよ、千代は熱を出しやすいからね、あまり厚着は負担だろう。」
襟巻きまでつけられ、月を見上げるとにこにこしていて顔が熱くなる。
両手をほほに当てるとくすくす笑う月を見て照れくさくなりヘヘッと笑う。
「随分と仲良しだね」
「おや、ヤキモチかい?」
「君の特別なんだね」
「あぁ、ねぇ、八千代」
振り返り小首をかしげる。頭を撫でてやれば無邪気に笑を向けるもんだから二人も驚く。
「ああ、これは仕方ないね」
「うん、愛らしい」
「少しは心が戻ってきたんだよ」
「そうだね」
「良い休みになれたかい?」
「はい、帰る場所が出来ました」
「おや」
「おぉ」
「それは⋯」
「今まで沢山ありがとうございました」
頭を下げる千代に三人はくすくす笑う。
玉華がにこにこしながら、そっと手袋をつけていた。
「千代様、御三方に遊ばれてはなりませんよ!私共はいつでも、お帰りをお待ちしております」
「ありがとうございます」
月を、ちらりと見るとウィンクをしていて真っ赤になる千代。三人はくすくす笑い玉華は真っ青にしていた。
客人の元に駆け寄り、微笑む。
いつもの笑みを。
「さぁ、行きましょう。私のせいで大変遅れて申し訳ございません」
「体調はもういいのか?」
「はい!ご心配お掛けしました」
「母上、本当に大丈夫なのですか?」
「勿論ですよ、さぁ、参りましょう沢山やることがありますからね」
「⋯千代⋯本当は」
「さっさと行くぞ、狸が何かをしでかす前にな」
「はい、王様⋯邵可、ほら行きましょう」
下唇を噛み締める弟の手を掴み涙を拭う。
「大丈夫よ、邵可。お姉ちゃんに任せて、ね?」
甘え方を知らない。
千代も、邵可も、誰も彼も。
そうして藍州を足速に離れた。
慣れたように馬に乗る千代の姿は戦人の様だった。