第4章 彩花。
熱が下がると甲斐甲斐しく世話を焼いたのは月だった。千代はお姫様のような扱いにムズムズしていた。
月は意地悪をしては酷く甘やかしてくる。
それが心地よくもむず痒かった。
「八千代」
月が優しく見つめる時、必ず顔にある火傷のような痕を指でなぞっていた。
化粧品を借りているためむくれるとクスクス笑う。
「そんなもの顔に塗りたぐらなくても君は充分魅力的だよ」
「意地悪ですね、そんな綺麗なお顔の方に仰られても⋯何だか居心地が良くないです」
「そうかい?本当の事さ」
「⋯⋯私の名前、私が誰か私は知りません」
「僕達は知ってるよ。けれど、教えない。こればかりは誰に聞いても同じさ」
千代はしょんぼりとし苦笑いを浮かべる。数日で知ったのは三人過保護ということ。
それがどういう意味なのか理解してきたところだった。
「⋯月様?」
髪を撫でて遊ぶ月。
短く指通りの面白みもないだろうに。
首を傾げると、あれだね、小芥子の様だねと言い千代を怒らせる。
それでも⋯
「そんな事してないで早く出掛けよう、今日は琵琶を聞かせてくれるのだろう?」
待ってるよと、優しく微笑む月にまた安堵する。
そんな日々に戸惑いながら、安らかな日々をゆっくり過ごす。
玉華が顔をを出す日は三人が出掛けているらしい。新妻の悩み事相談室になっていた。彼女にも、自分は誰で何者か聞いたが彼女は私の口からは言いたく有りませんと頑なになっていた。
玉華と過ごす晴れの日は好きだ。
青空の下で、洗濯物を干すとなんとも心地よく気分がよかった。