第2章 彩香。
静かに腰を上げたのは一刻してから、旺季は崩れるような彼女の腰をつかむ。
なんと軽い事か。
千代は申し訳ございませんと言いながらふらりふらりと歩く。
客間には王と鬼姫が座っていた。
その姿をみてため息をつく。
「どうなさったのですか?」
「千代火傷は、火傷はどうなった!?」
席を立ち鬼姫は千代の肩をつかむ。
「何ともないと申したでしょう、それより此処で悪巧みはよして下さいまし。子供の耳は何処にあるか分かりませんからね」
あれだけ念入りに眠ったのを確認していてまだ言う千代。鬼姫はそろっと彼女に眼鏡をかける。
「あぁ⋯千代⋯目が」
紅い瞳、前髪に隠れていた瞳は白く淀んでいた。流石にそこまでは隠しきれないのが事実。千代は苦笑いを浮かべた。
「貴方が心を痛める事ではありません。それだけの為に私をお待ちしていたのですか?」
「あの毒は誰からだ」
「存じ上げませんね」
「御史台が聞いて呆れる」
「申し訳ございません」
おそらく⋯ただ一つ。
あの時間に水を飲む確率が高かったのは清苑公子。
昼時間は宋将軍の元にいる。
そして、劉輝は私の元にいる。
時間的にはいつもならもうねむっている時間。なら、狙われたのは清苑公子。
「誰が狙われた?」
「存じ上げません⋯」
「⋯千代、本当に知らないのかい?」
「はい、申し訳ございません」
清苑公子を狙うにしても、私をよく知らず、王の周りに居るもの、つまりは上官以上。
そして、清苑公子を目の敵にするとなれば限られてくる。千代は優しく微笑みながら考え込む。明日にでもおびき寄せ始末をしよう。同じ毒を同じ場所に置いてきてある。あれは飲まれていないと知れば直接私に言いつけてくるに違いない。
あとは、証拠を集め根絶やしにするだけ。
戩華は千代を睨み、千代は不動の笑を浮かべていた。ハラハラする鬼姫はちらりと弟に視線をやるが、首を振っていた。
「それより、主上あの、愚かな大会はどうなりました?」
「今年は中止だ」
「そうですか、それは残念ですね⋯⋯」
ほっと胸を下ろした。
「お前はどちらを殺そうとした?」
その問に千代は首をかしげた。