第11章 才華。
この男の背中を見ながら歩くのは嫌いではない。
なんてったって憧れで愛おしいものだから。手を伸ばしては引っ込める。
人の者だ。
ぼんやりと、思い出すのは俺に出来なかったことをしてこいと言う男の言葉。
そんな事ないに決まってる。彼は満足していた、不満でけれど、満足していたのだから。
その男の背中をもう一度見る。
広く遠いい。
貴方を好いたのはいつだろう。
今の私には貴方が私の目の前から消える恐ろしさしか解らない。
「千代、こんな噂を聞いたことがないか?」
「へ?」
「藍家の末っ子は公主がお気に入りだとか」
「!?」
振り返りにやりと。
つい、腕をつかむ。
「な、何故そんなことに!?」
腕を絡ませゆるりと、歩きながら続ける。
「蒼姫にも聞いたが心当たりはないらしい、俺に似たのかお前に似たのか罪作りな娘だ」
「⋯⋯演習場とかででしょうか?」
「まぁそうだろう、それに、最近は旺季の周りをちょろちょろしていたからな、たまたま訪れた藍龍蓮が一目惚れしたのやもしれんな」
「あ、貴方それであの子になんて?」
「何もない。『嫌です、[藍龍蓮]とは結婚しません。確かに藍家は良いとしても龍蓮は私には⋯大きすぎます。私の好みは燕青様です』と、酷く不機嫌だったな」
「正論だけど、燕青なんてもっと駄目よ」
「俺からしたら確かに藍龍蓮より、その燕青とかいう男の方がマシだがな」
ふと、顔を見上げる。
「けれど、アレはお前に似ているとお前を愛するものは言い、俺を憎むものは俺に似ていると言う。どちらも正解だろう、だが、俺から見ると確かに俺によく似ている。規則に当てはまる娘には思えんな」
ちらりと、視線をよこされ額を抑えた。ええ、そうでしょう。
規則の解れを掻い潜って私が妃になり子供まで産まされた。
「栗花落様は?」
「言えるか、それでなくとも今あいつは旺季の所に行く蒼姫をあまり良く思っていないからな」
「当たり前です!」
ふと、立ち寄ったのは風鈴屋。
「まぁ!綺麗⋯」
ガラス細工が好きな為見入ってしまう。
他にも珍しいガラス細工の簪や、髪飾り。
「美しいですね!」
「そうだな」
戩華も少しは興味があるのか楽しげにしている。
「ガラス細工⋯好きなんですよ私」
外は久しぶりに澄んでいるように感じた。