第10章 彩稼。
認められず睨みつける。
「それで、その娘はどうした」
「お前が、もう、繰り返さなくていいと許したろう?良くやったと。だから、消えたのさ」
「許した?」
「お前は知っていたのか、まぁ、何方かと言えば勘づいたのだろうね、千代にまだ満足していないと言い続けていたからね。確かにそうなんだ、その言葉で、つなぎ止めていたんだから。その言葉で千代はまだ、死ねなかった、生きてる戩華の前から去れなかった、あの娘は紫戩華の官吏だから。お前の願いを叶えずには消えることは出来なかったのさ」
「⋯⋯⋯⋯」
「こんな話をしても、お前は何一つこの話題で理解出来やしないよ。」
「蒼姫なら出来ると」
「あぁ、蒼姫もまた、お前に似て千代の愛を枯渇したからね。お前達には愛など貰えやしなかった訳だけど」
何故か胸が苦しくなる感覚を覚えた。
いや、知っていた。
目を閉じると、誰かが膝を抱えて窓際で眠っている。
三日月が見えて、苛立ちをため息で消す。
その誰かは起きて、少し眉を下げ微笑む。
それは、栗花落でも、後宮の誰でもなかった。
その姿を見るのが嫌で、だから、抱えて床に入れて眠る。消えぬよう、去らぬよう、他を見ぬよう泣いてばかりのそれを抱き続けた。
「⋯⋯戩華、思い出したところでどうしようもないんだよ。だから、いい。蒼姫が悲しむ。あの娘は危うい、千代によく似ているからね」
「⋯千代⋯⋯」
どれだけ愛しても、愛していますよと口先だけの言葉を投げつける。
何を言っても、栗花落に押し付けられる。
瑠花が優先、劉輝が優先、清苑が優先、旺季が優先、邵可が優先⋯藍家の色を纏ってそこいらの娘のように頬赤くして、されど自分にそれが向くことは無かった。
優先順位で言えば、一番下だ。
何をしても許した。
何をしても怒らなかった。
嫉妬?そんなもの見たことがない。
あぁ、そう。
していたのはいつも自分だった。