第8章 彩火。
その質問に蒼姫は目を見開き、柔らかな笑みを浮かべていた。
それは、千代に良く似ていた。
「はい、母上が大好きなのです」
栗花落は蒼姫を見て苦しくなる。
千代は全くと言っていいほど蒼姫を愛していない、あれほどわかりやすく他人を愛せる彼女が全く愛していなかった。
それ程彼女を嫌悪しているとは蒼姫はまだ知らない。
栗花落は一生知らないでいてほしいと思ってしまう。
それは無理な話だ。
わかっていても戩華は千代を咎めることは無かった。ただ、こうして居なくなる事はただただ、不愉快だった。
「にしても本当に劉輝を王に据えるなんてびっくりだよ、昔の君からしたら想像がつかなかったからね」
栗花落は蒼姫の髪を梳きながらくすくす笑う。
「⋯⋯あんなハナタレに引き渡すつもりなんか無かった」
ただ。
そう、ただ。
千代が、喜んだから。
嬉しそうに泣いて、戩華と栗花落を抱き締めてくれた。
『そろそろ劉輝に王位を⋯』と思ったが辞めると言うつもりだった。
千代は涙を流し飛びついていた。
『ありがとう、戩華⋯ありがとう⋯栗花落様⋯⋯ありがとうっ』
二人は思い返していた。
劉輝の不安そうな顔とは反面に、千代だけが、喜んでいた。
心を閉ざしていた千代のあの喜びを、表情を、忘れられない。
「⋯千代、嬉しそうだったからね」
「⋯ふん」
「母様?なぁに?姉様?」
「蒼姫、お前は劉輝とは仲が良かったか?」
唐突な質問に蒼姫は振り返り頷く。
「劉輝お兄様と仲良しなのです!」
ふふっと嬉しそうに微笑む。
「ふむ⋯あぁ、そうだな」
「はい、蒼姫前を向いているんだよ、で、この可愛いお姫様をどうするつもりなんだい?」
「蒼姫、お前は勉強が足りない。千代の様に琵琶を奏でることもままならぬ、それだけならまだしも未だに手を使って計算をしているとか」
ぎくりとした蒼姫。
彼女は計算が苦手だった。
琵琶よりも、二胡が、二胡より琴の琴に長けていた。
最もそれは旺季の賜物なのだが。
出来すぎる千代と比べる戩華に栗花落は面白くなさそうな顔をした。
「暫く王宮を離れろ」
「へ?」
「はぁあああああ?」