第7章 彩駆。
「お前は前に言ったな、俺が動くのは栗花落の事だと」
「はい、覚えております」
「いいや、違う。お前の事だ俺が動くのは」
千代は優しく瞳を微睡み、小首をかしげる。
「妃の座を下ろして下さいませ。清苑とここの子供たちと穏やかに暮らしたいです」
「お前はこの世界で一度も俺を愛そうともしなかったな」
「愛しております、ですが、栗花落様には程遠いいですよ」
「引き合いに他を出すな」
「⋯⋯王様、私は私を娘だと愛してくれた貴方と栗花落様がとても愛おしいのですよ。この世界で何方とも、結ばれたく無かったのです。そうでないと、知ってしまうでしょう?この世に私が帰る場所も、優しく悪戯っ子のように応援してくれる人も居ないのだと。居場所が無ければ帰る場所はあの場所。だから、この世界を出たら私は⋯今度は帰る場所を探しに行くから必要なかったのです。」
「その世界の俺も栗花落も死んでいる」
「えぇ、ですが、解るのですよ。呪いを掛けた場所は。目印がありますから。」
悪戯っ子のようにふわりと笑っていた。
目を閉じると思い出す。まだ覚えてる。
忘れられないたった一つの蜘蛛の糸。
千代が心の支えにしていたであろう言葉。
『お前がもし、また、ふらりと寄ったら解るように目印をしとかねばな』
『王様用意周到ですね』
『私の案だけどねぇ』
『ですよね!王様は無理ですよね!』
『千代少し黙っていろ』
『はい、で、どんな⋯どんな目印ですか?』
『栗花落⋯どうにかしろ』
『戻って来たらまた、三人で居られる呪いだよ』
『それは⋯それは⋯⋯無理です⋯⋯きっと、二人は死んでいます⋯』
『うん、だから、何億何兆いやもっとかなそれ以上の確率で、もし、全ての世界を回って君が帰ってきたなら、あの世でもう一度三人で家族になろう』
栗花落の言葉に千代は嬉しそうにしていた。この上ない喜びと言うように可愛らしい顔をくしゃくしゃにして。