第7章 彩駆。
「どういうことだ、栗花落」
「見てわかるだろう?君の子だよ」
「⋯は?」
「君の子、君の娘、認めないなら戻すよ。」
栗花落はそう言ってじっと、王を見つめた。
王はどう見ても劉輝の小さい頃を思い出す面立ちと、第二公子に似た髪色。
誰の子だと眉間を寄せた。
「⋯お前の子か」
「どう思う?」
「名は何という」
栗花落は苦笑いを浮かべた。
赤子に謝るように小さな声で名前を呼ぶ。
「蒼姫⋯⋯⋯お前は、ちゃんと、この男には望まれたんだよ」
「千代か、千代だな、千代はどうした」
「⋯⋯その前に、戩華、この子はどうする?」
「千代の娘だろう、認めるに決まっている」
「⋯そっか、そうか」
栗花落はほっとしたようにふらりとする。栗花落を抱きしめると赤子はふにゃりと笑っていた。
「この娘を千代に産ませたんだよ⋯降ろしたいと、この娘が産まれる寸前まで、一片もこの娘を愛そうとはしてくれなかった。だから、ずっと、私や瑠花姫と見張っていた。嫌がる千代に産ませたんだ」
だから、か。
さっき引っかかる言い回しをした。
この男には望まれたと。
劉輝や清苑をアレほど愛したあの千代が。
微塵も愛さなかった。
「戩華、私はね、千代は君を愛していると思っていた。あぁ、千代は君を大切に思っているんだろう。けれど、千代が愛しているのは君ではないんだね。私はそれを知らなかったんだよ、許してほしい戩華」
「千代を連れ戻す。それはお前が面倒を見ろ。劉輝は珠翠が見ている。良いな」
「戩華⋯あの子は」
「あの娘が唯一、この世界で愛していたのは俺以外だ。王も臣下も民も家族も愛していた、真っ当な愛で、歪んだ愛で守り愛していた。だが、紫戩華という男だけは愛される事はない。それはあの娘にもそうだからだと今気付かされた」
自分が嫌がっていた状況を自分が作り出したんだと気づいた。
赤子はきゃっきゃと馬鹿のように微笑む。
ああ、栗花落がまず何より確かめたかった訳だ。
認める、この娘は私の娘だと。