第8章 裁判
令呪の宿る右手を、高く掲げる。
「来て、アヴェンジャー!!」
刹那、右手に走る鋭い痛み。
空を切り裂いて、黒い彗星が落ちてくる。
「――――――俺を、呼んだな!!」
あの愛おしい声が、確かに聞こえる。
アヴェンジャーは上空から、ジャンヌ・ダルク・オルタの姿をした敵へ、黒炎の一撃を炸裂させ、吹き飛ばした。それと同時に、周囲の『人間のような存在』達を一撃で焼き払い、消滅させた。
そして、私と敵の間に、軽やかに着地してみせた。
「クハハハハ! 俺のマスターに、随分な冤罪(えんざい)を吹っ掛けてくれたな! 何が裁判だ!? 笑わせるな!!」
「ぐ……っ。」
アヴェンジャーに吹き飛ばされた敵は、苦しそうに呻(うめ)き声をあげた。
「さて、貴様の残り少ない手勢は、全て焼き尽くした。残るは貴様だけだ。紛(まが)い物め。」
「う……、うるさい……、五月蝿い、ウルサイウルサイウルサイウルサイ!! 判決は既に下ったのだ! 覆(くつがえ)らぬ! 絶対にだ!!」
旗を支えにして立ち上がりながら、敵は尚も抵抗の姿勢を見せている。どうあっても、私を殺したいらしい。
「私を殺したって、何も変わらないでしょう!」
そう。既に、人理修復は終わったのだ。今更、私を殺したところで、何かが変わるなどということは、あり得ないのだ。
「五月蝿い、小娘!! お前を嬲(なぶ)り殺さねば、“我々”の気が収まらんだろうがァ!!!」
敵は、鬼の形相で、そう叫び散らした。元となった存在が、あの麗しいジャンヌ・ダルクであっても、今目の前にいるこの存在からは、何の気品も、ひとかけらの美しさだって感じられない。ただひたすらに、醜い存在だと、そう思った。
「ははははは! 漸く以って本性を現したな! その醜悪に過ぎる思想こそが、今回の異常の原因となったモノだろう! ならば! ここで消し去ってくれよう!!」
アヴェンジャーの魔力が一気に増大する。敵は、先程だって、散々アヴェンジャーの猛攻を受け続けていたのだ。この攻撃を喰らっては、敵はまず間違いなく耐え切れず、その結果消滅する。