第8章 裁判
「ぶ、アハハハハハハハハ!」
ジャンヌ・ダルク・オルタは、突然笑い出した。
「何を言い出すかと思えば……。“我々”はただ、“裁判”を行いたいだけだよ。“裁判”。分かるかね? そこのアヴェンジャーと……、……そこの小娘! 死ね!」
完全な不意打ちだった。私を目がけて、空気を切って放たれる短刀。しかし、当然その短刀は私にかすることもなく、瞬時に地面へと叩き落とされる。
「不意打ちのつもりか? それなら、まずは俺を殺してからにせねばなァ!!」
アヴェンジャーが、爆発じみた突進を見せる。後方に立っていた私でも、目を瞑って受け身を取らなければ、巻き起こった風にすら耐えられないほどだった。
アヴェンジャーの、凄まじい連続攻撃が、ジャンヌ・ダルク・オルタを襲う。この僅か数秒の間に、攻撃側と防御側が入れ替わった。防衛側に回ったジャンヌ・ダルク・オルタは、旗を両手に持ち、防御の姿勢を取るので精一杯のようだ。
「クハハハハ! その程度か! 先ほどまでの威勢はどうした!?」
「くっ……!」
私から見ても、ジャンヌ・ダルク・オルタは、アヴェンジャーの猛攻を受けるので精一杯という感じで、反撃らしい反撃など、全くできずにいる。
「貴様、本当にあの旗持ちか? 反転しているとはいえ、あのルーラーの能力を多少なりとも“真似て”いるのだろう?」
「五月蝿い、……ッ、サーヴァント風情(ふぜい)が! お前さえいなければ、“我々”は今頃……!!」
アヴェンジャーからは、余裕すら感じることができる。このペースで猛攻を加えられては、ジャンヌ・ダルク・オルタとて、もう長くはもたないだろう。現に、ジャンヌ・ダルク・オルタには、誰が見ても分かるほどに、苦悶の表情が浮かんでいる。
それに、彼女は本当に、『ルーラー/ジャンヌ・ダルク・オルタ』だろうか? 先ほどから、言葉遣いが妙だ。フランスの特異点で会った彼女とは、明らかに違う言葉遣いをしている。他人に対して『お前』と呼び、「分かるかね?」等と男性じみた口調で話している。何より、一人称が“我々”だということも気になる。 どうにも、不審な点が多すぎて、私の記憶の中にあるジャンヌ・ダルク・オルタと、目の前にいるジャンヌ・ダルク・オルタが繋がらない。