第7章 巌窟王
「ん……!? んむ……っ……」
私の唇は、アヴェンジャーによって、塞がれている。突然の行動に、私はどうしていいか分からない。口が塞がれていて何も言えないからなのか、代わりに、私の目からは涙が出てきた。あぁ、ほんの一昨日、アヴェンジャーに魔力を供給するためにキスしてもらった時も、私は泣いていた。ここ数日は、毎日が濃過ぎて、もう遠い昔みたいに思えるけれど。
「……、っぁ……ふ……。」
どれぐらい時間が流れたかは分からないけれど、多分数秒ぐらいだったと思う。エドモンの唇が、私から離れた。名残惜しいだなんて、そんな考えが、一瞬私の頭をよぎった。なんて私は、欲深いのだろう。そんな私を誤魔化し、塗り潰す為に、小狡い私は口を開く。
「魔力、足りない……? 大丈夫……?」
痛い。痛い。何が痛いって、こうして、自分の気持ちを誤魔化すことしかできないことが。そして、『マスター』の皮を被り続けることでしか、エドモンの傍にいられない、この現実が。でも、器用じゃない私は、そんな自分を完全に隠すことができない。だから、涙が溢れて、止まらない。なんて薄汚い涙だろう。そんなこととは知らないエドモンは、そんな私の涙さえ、拭ってくれる。罪悪感で、胸が潰れそうだった。
「……嗚呼、そうだな。 足りぬな。」
エドモンは、そう言って、もう一度私に唇を寄せた。背中にはエドモンの片腕が回されていて、私の背中は優しくベンチに倒された。黒十字の瞳孔は、黄金に彩られていて、その瞳を見ているだけで、私は動けなくなる。私はもう、完全に、心底エドモンのことが好きなのだと、そう思った。いつかの“監獄塔”よりも、エドモンの瞳の方が、私を閉じ込めているなんて、笑い話にもならない。
私がそんなことを考えている間に、私の唇は、エドモンによって再び防がれる。頭の中がぼんやりとして、幸せな気持ちと、罪悪感とが混じり合って、私はぐちゃぐちゃだ。