第7章 巌窟王
私はアヴェンジャーを信じる――――そう答えたその瞬間に、私の唇は、アヴェンジャーの唇により、塞がれていた。
一瞬、何が起こったのか分からなかった。私の視界には、アヴェンジャーの端正な顔があって、口の中に、何かが入ってくる感触があって。
その正体が、アヴェンジャーの舌だということに気付いたのは、唇を重ねられてから数秒が経ってからだった。
――――ちゅ、くちゅ
およそ戦場には似つかわしくない水音が、私の耳に届く。アヴェンジャーは、私の舌を絡め取り、そのまま吸った。ぼうっとなる頭。それでも私は、この瞬間に、確かにアヴェンジャーを感じた。どうやら、魔力を吸収されたらしい。やっと唇が離れたかと思うと、あろうことか、アヴェンジャーはこくりと、その喉を上下させた。
「――――はっ!?」
その光景に、一気に現実へと引き戻される。ちょっと待って、今、アヴェンジャー……、私の唾液を呑み込んだ……!? いや、でも、何か言おうにも、ここは戦場だし……! どうしたらいいの……!?
「ハハハ……、クハハハハハハ! マスター! そこで、しかと見ていろ!!」
アヴェンジャーは、高らかに笑いながら、屋上から勢いよく飛び出した。私も、慌てて屋上から身を乗り出し、アヴェンジャーの姿を捉える。まずい。このままだと、アヴェンジャーは、シャドウ・サーヴァントもどきたちの、格好の的になってしまう。最悪、空中で撃ち落とされかねない。
「宝具、開放――――――」
アヴェンジャーを中心として、魔力が収束していく。シャドウ・サーヴァントもどきなどとは比べ物にならない、圧倒的な魔力の圧。それでも、数の差で、アヴェンジャーの圧倒的不利だ。この差は、覆らない。でも、私は――――、アヴェンジャーを信じる!