第4章 誓い
外套を翻し、アヴェンジャーが駆ける。
黒い炎を纏ったその姿は、夜空を駆ける彗星だった。その光景に、私はまばたきひとつだって、出来やしない。いつだったか、アヴェンジャーは自分のことを、『毒の炎』だの、『怨念の炎』だのと言っていた。でも、そんな事は関係ない。私にとって、アヴェンジャーは、絶望の中にでも確かに在る、私を照らす灯火(ともしび)なのだから。
『我がゆくは、恩讐の彼方―――――
虎よ、煌々と燃え盛れ(アンフェル・シャトー・ディフ)!!!』
この世界の時間が止まったかのような、怒涛(どとう)の連続攻撃。あまりの速度に、アヴェンジャーの姿は見えないが、黒い炎の猛(たけ)りが、その攻撃の荒々しさを雄弁に語っている。
「――――――――!!!!!!」
金切り声のような不気味な声を発しながら、急速に崩壊してゆく、巨大な怪物。
「慈悲など要らぬ。存分に、朽ち果てよ。」
アヴェンジャーは、仕上げと言わんばかりに、渾身の力を込めて怪物を焼き払った。その炎は、天まで届かんばかりに燃え盛る、業火の火柱だった。
「――――――――……、…………」
やがて、その不気味な声も消え、怪物の姿は完全に見えなくなった。あの、“人間のような存在”と同じで、あとには、灰ひとかけらだって、残らない。
「……。一旦、戻るぞ。流石に、疲れたからな。」
「あ……。」
私は、まだ現実感を掴みきれないままに、アヴェンジャーの背中を追った。方角的に、恐らくあの教会を目指しているのだろう。まぁ、ここに来てから見た建物の中では、あそこぐらいしか使えそうな建物が無かったのだから、それ以外に選択肢は無いような気もする。
私も、何だかぼーっとして、道中のことはあまりよく覚えていない。アヴェンジャーとは、一言だって言葉を交わさなかった。