第3章 憎悪
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一目散に、来た道を引き返す。脇目もふらず全力疾走した私は、肩で息をしている。
「一体、何だったの……。」
これから渡る大橋を前にして、そんなことを漏らした。
「あれこそが怨念がカタチとなったものだろうよ。俗に言う、“怨霊”だな。普通なら、あのように生身の人間を襲うだけの力は持たないのだが……。ここは“元・特異点”。そういったモノが集まりやすいのも、道理だな。」
アヴェンジャーは、冷静に分析を述べている。
「ってことは、この冬木市は今、実体を伴った怨霊たちが、ウヨウヨして……」
言いかけて、息を呑んだ。
「……!」
声が、出ない。
背筋が、凍る。
息を吸うことが、出来ない。
「いるな。大物のお出ましだ。」
アヴェンジャーの口元が吊り上がる。冷静な瞳が、今再び獣のそれに豹変する。
「―――――――――――――!!!!!」
呻(うめ)きとも、悲鳴とも取れぬ叫び声をあげながら、“それ”は、大橋上に出現した。後ろは、先程の“港”だ。退路は無い。
「……、……!」
数秒の後、やっと呼吸が再開した。自分が息を吸って、吐くだけの音。それが、妙に自分の耳に届く。
「―――――――――――――!!!!!」
骸骨が幾重にも組み合わさってできたような、何とも筆舌に尽くしがたい巨大な怪物が、天に向けて絶叫を始めた。
「……ぁ……、……?」
怪物の巨大な腕が、ものすごい速度で、私に向けて振り下ろされる。避けないと。あぁ、でも、きっと、この“憎悪”と“殺意”からは、逃れられない。
それに、なんでだろう。私は、この腕から、逃れてはいけないような、そんな気がして―――――――