第10章 お前に夢中~愛の檻~
白雪は雷が嫌いだ
嫌い…と言うより
怖い と言う方が
正しいのかもしれない
時の悪戯に
引き裂かれた
あの瞬間を
思い出すから
梅雨に入り しとしとと
雨粒が地面を濡らす
数刻を過ぎた頃から
雨足は激しさを増し
城の瓦に打ち付ける
雨音が強くなる
やがて閃光が闇夜を照し
遅れて轟音が響いた
「っ……」
雷の音に驚き
身体を固くした白雪が
指先を眺める
白い指先に
深紅の小さな膨らみが現れ
みるみる広がっていく
糸切り刃で指先に
傷を付けたようだった
舐め取ってしまおうか
手拭を取ろうか
迷っているうちに
足音が聴こえてくる
もう足音で
政宗と分かる
そんな自分が嬉しくて
雷の事も忘れ
思わず頬が緩んだ
「白雪いるか?」
声を掛けながら
襖を開けると
左手を押さえる
白雪と目が合った
見れば 指先に鮮血
政宗は考えもせず
指先を唇に運んだ
「あっ…政宗…」
ちゅっ と吸われて
チクリと指先に痛みが走る
眉をひそめた白雪を見て
政宗が唇を離す
「…痛むのか」
「ちょっとだけ」
「珍しいな…お前が裁縫で
失敗するなんて」
「雷に驚いちゃって…」
「あぁ やっぱり」
政宗がにやりと白雪を見る
「そう思って迎えに来た」
「が…ちょっと遅かったな…許せ」
笑顔を仕舞い込んで
5ミリ程の小さな傷を
裂いた手拭いで巻いてくれた
「これでいい」
「ありがとう」
微笑む白雪に
いつもの不敵な笑顔を向ける
「礼は褥で貰う」
「っ…もぅ」
頬を染める白雪を
にやにやと眺めながら
片付けを待つ
襖を開けた時
薄く笑っていたのが
気になって 問い掛けた
「そう言えば
さっき何で 笑ってたんだ?」
「え?………あぁ!
ふふっ 足音で政宗だって
分かったから 嬉しくて」
(あぁ まただ
また可愛い事を言って 夢中にさせる)
ぞくりと腹を覆う 甘い疼きを
知られまいと 余裕に構える
「お前…ほんと 俺の事好き過ぎるな」
「…うん……ほんと…困っちゃう」
「何で困る…」
ムッとして睨む
「だって…」
白雪の言葉を遮るように
地を引き裂くような雷鳴が轟いた
「きゃぁっ…」
政宗の胸に飛び込んで
耳を塞ぐ白雪
すっぽりと腕に収めて
きつく抱いてやる