第8章 織姫の涙
好意に甘え湯浴みをして
身体を温めるとそれまで
気にならなかった
手足の痛みに襲われた白雪
ぐるりと手首と足首についた
擦傷がヒリヒリと熱を持つ
「っ…痛」
生きている安堵感と
無惨に殺された者達への
憐憫とで涙が溢れた
「白雪…大丈夫か?」
「っ…政宗?」
扉越しに政宗の
心配そうな声が聞こえた
「うん…大丈夫」
「女中に着物を借りたから
これを着るといい」
いつもなら当然の様に入って来る
政宗も今日ばかりは扉を開けずにいた
「ちゃんと温まれよ
怪我 後で手当てしてやるから」
まるで見ていたかの様に
告げられて誰もいない後ろを
思わず振り返った
屋敷の家臣 佐助達 自らの家臣らに
手早く腹の膨れる 雑炊を作り
広間を借りて家臣を一晩休ませる
女中に着物を借りた政宗は
一人泣いているであろう
白雪の元へ来た
湯浴みから出て来るのを
壁に凭れて待つ…
木戸が開くと何時もと違い
簡素な無地の着物に身を包み
仄かに頬を上気させた白雪の姿…
「政宗…待っててくれたの」
「お前 泣いてただろ」
白雪が驚いて顔を見上げる
政宗はにやりと唇をあげて
「やっぱりか…一人で泣くな
お前が泣くのはここだろ」
と白雪を胸に引き寄せた…
「っ…ふっ…こわかっ…た」
細い肩を震わせる白雪の
涙を拭い 頭を撫でる
「まずは手当てしよう
それから飯だ 腹減ってるだろ」
白雪を抱上げ 用意した部屋に運ぶ
手首と足首の擦傷に薬を塗り
包帯を巻いてやる
「痛むか?」
「少しだけ」
今にも手折そうな細い手首に
そっと唇を寄せると
白雪が少しだけ笑う
「政宗の方が痛そうな顔してる」
「……どこかで聞いた台詞だな」
「ふふっ」
微笑んだ顔を見て
やっと安心する
雑炊を温めて持って来ると
匙に掬い差し出してやる
「えっ…自分で食べるよ」
戸惑う白雪を無視して
口元に運ぶ
おずおずと口を開き
一口食べる
「美味しい…政宗の味だ」
「だろ ほら」
「ふふ もう大丈夫だってば」
「だーめーだ お前はもっと甘えろ」
(あれ?この状況どっかで……
あっ政宗が怪我をした時の…)
「政宗の…真似しん坊」
「明日からは食事も湯浴みも
全部付き添ってやる……むろん廁もな」
「えっ」
耳まで染めてたじろぐ白雪に
意地悪に笑う政宗だった