第8章 織姫の涙
蝉時雨の中を 白雪と二人
手を繋ぎそぞろ歩く
涼を求めて 川縁へ来ると
川辺の床机台に腰掛け
せっせと何かを作る
子供達が眼に留まる
手元を覗けば
短冊 紙衣 折鶴 巾着
投網 屑篭 吹き流し…
「七夕の準備か 精が出るな」
政宗の声に 子供達は
振り返りもせず 手元を見据え
一心に作業を続けながら応える
「うん 今年は政宗様が
お城に戻られたからすっごい
盛大にお祭りするんだって」
「父ちゃんも母ちゃんも
楽しみにしてるんだ」
「今年は白雪様って言う
天女みたいに綺麗なお姫様も
見られるんだよ」
「もっといっぱい作って
大きな竹に 沢山付けようぜ」
「おう!」
子供達は口々に言葉を
発しながら器用に
千代紙を操っていく
政宗と白雪は顔を見合わせ
笑みを浮かべて静かに
子供達から離れる
「綺麗って言われちゃった…
期待外れにならない様に
うんとめかし込まなきゃ」
白雪がはにかんで笑う
「お前はそのままで充分綺麗だ」
「っ…もう…またそんなこと言って…」
時を重ねても 他愛ない事で
頬を染める白雪が 初々しく
愛しさが増していく
「今年は華々しく賑やかに
やるから 楽しみにしてろよ」
「七夕祭こんなに昔から
やってるとは 思わなかった」
「500年後もやるのか?」
「うん…500年後でも
この地の七夕祭は
盛大で有名だよ」
「へぇ ずっと続いていくのか…
続くってのは いいもんだな」
「うん…あのね 政宗の作った
物や街は 未来永劫続いていくよ」
一瞬 驚いたような顔をして
直ぐ様にやりと笑う
「ははっ…普通なら
見てきた様なことを
ぬかすなと言うとこだがな…」
「ふふっ 見てきたよ」
「…未来の青葉は良い所か?」
「知りたい?」
「…否 いい止めておこう」
「ふふっ 一つ言えるのは
500年後も 政宗はこの街の人々に
尊敬され 慕われてるってこと」
白雪が見てきたであろう
未来のこの地で 自分はどんな風に
言われているのか 興味はある
が…白雪の嬉しそうな顔をみれば
悪い評判では無いと分かる
それだけで充分だった
「…だといいがな
未来で何を言われようが
今出来ることするだけだ」
「…うん 政宗なら出来る
どんなことも」
自信満々に頷く白雪に
笑みが溢れる
頭を撫で また手を繋ぎ
川辺の風を楽しんだ