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イケメン戦国~捕らわれた心~

第21章 闇~秘密の寺(淫獣)~


「なつ…の…」


「………」


夏野は言葉なく
籠の隅に落ちていた
藤色の衣を肩にかけると


乱れた髪を直すこともなく
格子に凭れて座り直した


ぼんやりと
こちらを眺める夏野に


お松があれこれと
話し始める


聞いているのか
或いは耳に流れてくるだけで
意味を理解していないのか


呆けたような
思い詰めた様な


その壊れた表情に
い言えぬ恐怖を覚える


けれども同時に
半身が疼く…欲情に震える


羽織った着物の下で
自身が硬度を増した時


夏野の唇が
ゆっくりと開かれた


「甘酒…飲みたい」


掠れた声が
二人の耳に届いた


途端…弾かれた様に
お松が動く


「すぐ用意するからっ」


言うや否や
小坊を呼ぶのも
もどかしく部屋を
飛び出して行った


「……」


全裸に襦袢を引っ掛けて
バタバタと出ていく背中を
唖然と見送る光秀


ふと視線を戻すと
夏野と視線が絡んだ


「……恨むか」


誰にともなく呟くと
女の眼に感情が戻る


「いいえ…」


諦めたとでも言う様に
穏やかな表情で笑う


「……辛ければ…殺してやろう」


ふと涌いた仏心を
言葉にすると


夏野は声を殺して
笑いだした


肩を震わせ喉を鳴らす
その内もう耐えきれないと
声を上げて笑い転げた


「あははっ…くくっ…はぁ…
陰謀の明智光秀も存外甘いのね」


ひとしきり笑うと
格子を握り跪つく



「君主の逆鱗に触れた女と
その原因を作った女

どちらも
殺されて然るべき

少なくとも伊達政宗は
それを選択した筈

でも貴方は生かした…
そしてここへ置いた

何故…今更
殺してやろうなどと?

私が籠の鳥になって
気が触れたとでも?

それを不憫に思ったとでも?

明智様…よくご覧になって
籠に鍵は掛かっておりませんのよ

ええ…私は自由に
出入りが出来るのです

ここにこうしている限り
私は何もせずともお松が
たぁんと稼いでくれますの

綺麗な着物を着て
美味しい物を食べて

時折…身分の高い
見目麗しい男に抱かれ

鳥籠で聞いた事を
和尚に教えるだけ

不細工な男は
お松が引き受けますわ

あれは私に負い目が
在りますもの

私は美味しい物だけ
いただきますわ…そう

明智様…貴方の様な…」
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