第7章 中原中也/黒の世界のノクターン
頑張れ、なんて言われなくたって
今回の仕事は簡単だった。
そんなにデカイ組織でも無かったし。
早々に任務をこなして戻り、解散。
何となく寝付けなかったから、気晴らしにぶらぶら歩いてると
窓辺に佇む聖子の姿が見えた。
「何してんだ?」
「あ、中也先輩! 今は、月を眺めてました」
「月??」
近付いて窓の外を見上げると
綺麗な満月だった
「夜って好きなんです。雑音が少ないから風の音がよく聞こえるし…」
そう言う彼女のどこか儚い横顔と風に揺れる長い髪が
何故か目が離せなかった。
「中也先輩、ノクターンって知ってます?」
「は?ノクターン…??」
「夜想曲、とも言うんです。夜って色んな解釈があるので、悲しい曲もあれば綺麗な曲もあって…」
「へぇ…」
「私もいつか書けたらいいなって思ってます」
「…マフィア辞めて音楽家にでもなる気か? …ま、その方がお前の為かも…」
「辞めません!」
彼女は強い口調で言い切った。
そして俺の方を向き直った聖子の顔は凛としていて、意志のある眼差しだった。
「私は、みんなの役に立ちたいです」
そう言ったあとは急にふわっと笑顔になって
「だって、私はみんなの事大好きになっちゃいましたから」
なんて言いやがる。
『もう抱いちゃった?』
とか。マジで馬鹿だろあの野郎。
こんな純粋で、無垢で、心の綺麗な奴に
手なんか出せる訳ねぇじゃねーか…。
「ノクターン、だっけか? 出来たら聞かせろや」
「当たり前です!! 中也先輩には1番に聞いて欲しいですもん!!」
この笑顔は絶対誰にも奪わせねぇ。
上司として、部下であるコイツの事は絶対守ってやると改めて思った。
ーーー数日後
「やぁ中也、今日も身長は伸びてないみたいだね」
「黙れ包帯無駄遣い装置」
「あれぇ? キミの部下の可愛い子ちゃんは?」
「てめぇに関係ねーだろ」
「ふーん。執務室で書類整理ってとこかな」
「なっ!? 何で知って…」
「あぁ、やっぱりそうなんだ?」
「てめっ…! 鎌掛けやがったな!!?」
相変わらず胸くそ悪ぃ奴だ…!!
ヘラヘラふらふらしやがって…
…ん?ふらふら??
よく見ると太宰の手には葡萄酒のボトルが握られていた。