第1章 プロローグ
その夜、私は疲れているにもかかわらず一睡もできずに、目が痛いくらいの夜景をじっと見ていた。
パトカーの音が遠くでずっと聞こえている。
高層階だと言うのに。
『よぉ、那美おきてたか』
ぬぅっと一枚ガラスの窓から不意にリュークが顔を出した。
「うわあああああああ!!」
思いもしない登場に一瞬気が遠くなった。
「どっから入ってきてるんですか!!!超びっくりした!!」
やっぱりおもちゃでも着ぐるみでもないんだなぁ。
『ニアが、お前と一緒にいろって言うから』
「ニアが?」
なんなんでしょうか。
まあでも、一人でいるのも不安だし、リューク人間じゃないけど、いっか。
と、思ったそのとき、ノックの音が聞こえた。
今、深夜の2時。ルームサービスではないだろう。
もしかしたら、ハルさんかもしれない。
「…はい…?」
返事をして、ドアホールから覗くと、黒ずくめの人が立っていた。顔は見えない。性別すら分からない。言い知れぬ恐怖が沸き起こる。
「どなた…ですか?」
しかし、そいつは何も応えない。
私はドアロックをしたまま少しだけ扉を開けた。
「あの…」
声をかけた瞬間、扉の隙間から銃を突きつけられた。
「お前が死神が見えるという女だな?」
大きな声で言われたわけではない。
凄みのある凶器のような声。初めて見た銃よりも、その声に私は圧倒されてしまった。
「撃たれたくなかったら、ドアロックをはずしてこっちにこい」
私は言われるまま震える手でロックをはずし、ドアを開けた。すると、グイッと腕をつかまれ、背中に銃を突きつけられた。
「臨時捜査本部へ連れて行け」
すぐ背後に男の声を聞きながら、崩れそうになる足腰でなんとかエレベーターに乗り、地下へと向かった。