第1章 プロローグ
キラ。
数年前に爆発的に流行った、神のごとき力を持った人の名だ。
連日代弁者なる人がテレビに出ては世間を騒がせていた。
でも、今はもう、思い出す者もいない。
だけど最近、人々が新たにその名を思い起こすうわさが、まことしやかにささやかれている。
『デスノート』
名前を書いた人を確実に殺すことのできるノートがこの世に存在する。
そして、キラはそれを使って、あの数々の殺人を行っていた…というものだ。
ただの都市伝説のはずなのに、町はなぜか最近ものものしい雰囲気。
それが余計に、人々に信憑性を持たせてしまっているのだ。
シンジルカシンジナイカハ、アナタシダーイ!
ってやつですね。
ネットニュースを見ながら私は目的地へとやってきた。
そう、ここは成田空港。今日から中国の友人の家に行く。
ずいぶん早くついてしまったため、荷物を預けた後、待合室で休んでいると、すぐ2つ隣の席で、一人の男の子が足をぶらぶらさせながらおもちゃで遊んでいた。白髪でパジャマのような服を着ているかわいい子だった。
ころころ…
私の足元におもちゃがころがってきた。日本では見ない、けっこうグロテスクな人形である。
拾い上げて、じっと眺めていると、男の子が私に話しかけてきた。
「…おもちゃは、お好きですか?」
見た目は外国人っぽいのに、まったく違和感のない日本語で尋ねてきた。
「あ…。うん。私、昔おもちゃ屋でアルバイトしてたから、好き。見てるだけでも。きみのおもちゃ、日本のじゃないのかな、と思って、珍しくて」
そう言って男の子におもちゃを返した。
「そうなんですね、アメリカ製です。これ、けっこうお気に入りなんです」
「はい、お気に入りを見せてくれてありがとう。君もこれから北京行きに乗るの?」
「ええ、はいそうです。…ですが、レスター…私の保護役がまだ戻らないのですよ」
まだ2時間以上はあるけれど、一人でこんなところでまたされてたら、不安だろうな。
「そうなんだ…。私も同じ飛行機だから、保護者の人くるまで一緒にいるよ」