第1章 紅き姫の誕生
「私と母さんはずっとこの森にある小屋で生活していたわ。私も母さんも髪と瞳が紅い。だから、好奇の目で見られるから、とここで静かに暮らしてた」
彼は私の話を真剣に聞いていた。
やはり、母さんは彼の想い人なのだろうか。
「決して裕福な暮らしではなかったわ。常に食べ物に飢えていたし、服だって母さんが持っていた数着の服を二人で着まわしていたわ。サイズは合わなかったけど、そんな贅沢なんて言えないことくらい、ずっと幼い頃から分かっていた。母さんは貯金を少しずつ少しずつ切り崩しながら、パンを買って、私に与えてくれた。もちろん、そのパンを一日で食べてしまう訳にはいかない。一週間、二週間かけながら、食べていたわ」
そこまで話して、ちらりと彼に嫌味な視線を向ける。どうせ、彼はそんな貧しい思いなんてしたことないのだろうから。あなたには分からないのでしょうね、と口では言わなかったが、目でそれを訴える。
「今思えば、私以上に母さんはほとんど何も食べていなかったのかもしれないわ。気付けば、母さんの体はどんどん細くなっていたんだもの。私だってその時は今よりもっと痩せこけていたけど、母さんはそれ以上だった。それでも母さんは、髪を見られないように、とフードを深くかぶって、下町に出かけては何日かけて食べるための食べ物を買いに行っていたわ。貯金が尽きると、今度は母さんの持っていたものを売り出した。ネックレスもブレスレットも全て」
私は耳につけている、ルビーのピアスにそっと触れた。これに触ると、自然と落ち着く。
「そのピアスは?」
黙って聞いていた男性が私に尋ねる。
「これは母さんが唯一売らなかったもの。母さんは金目のものを全て売り払って金に変えて、私に全てくれたわ。そして、そのまま眠るように死んでしまった。私がまだ十二の時よ。たぶん、もう随分と何も食べていなかったのだと思う。母さんの残したものは、もうすっかり汚れきってしまった服と僅かな金と……このピアスだけだった。母さんはこれをずっとずっと大事に身につけていたの。だから、せめてもの母さんの形見として……」
喉が焼けるみたいに熱い。
喉も目頭も熱い。
あと、胸も。