第2章 ~ダメな、蜜~
三月末の空港って
別れの比率が多い場所だと思う。
そして、
切なさがあちこちに漂っている。
希望の満ち溢れて旅立つ人も、
それを見送る人はきっと心のどこかに
寂しさや切なさを抱えているし、
不安だらけで旅立つ人には、
本人も見送る人も、少しだって
旅立ちの晴れ晴れしさはみえない。
空を飛んでいってしまう、っていうのが
そもそも、たまらないのだ。
一度旅立ってしまったら
簡単には会えない、という感じが
ものすごく遠さを感じさせる。
だから、
新幹線のホームでの別れより
ちょっと、切なさの度合いが、濃い。
…と、今、私は思っている。
あっちでもこっちでも
長い長い別れに向けて、
笑顔の裏に我慢があふれた
「元気でね」が飛び交っている。
三月の空港って
本当に…切ない。
私も、その中にいる。
見送る方。
彼が遠くに転勤になってしまって
遠距離恋愛が始まるのだ。
「優介…」
「はるか、夏休みに、遊びに来いよ。」
「夏休みなんて、ずっとずっと先…」
「すぐだよ。君だって春先は忙しいだろ?
あっという間に夏休みさ。」
「…やっぱり仕事辞めて、一緒に行くべき…」
「ダメダメ!学校の先生なんて、
そう簡単になれる職業じゃないんだから。
…大丈夫。
三年もすれば僕もこっちに戻れるさ。
そしたら…結婚しよう。」
「優介…それって、」
優介が、笑う。
「あ、仮のプロポーズな。
本当のプロポーズの時は、
ちゃんと指輪も準備するから。
これは、予約。
…僕がいない間に、他の男が
はるかに目をつけないように、
予約だけ、させて。」
寂しいのに、嬉しくて、
ますます離れたくなくて、
思わず、抱きついてしまう。
「優介こそ、私がいないからって
他の女の人と親しくなったりしないでね。」
「しないよ。
はるかとの絆を確かめるための
大事な時間だと思ってる。
…距離になんか、負けないさ。」
「…電話、しようね。」
「あぁ。」
あの、
広いロビーに響く独特のアナウンスが
次々と飛行機の搭乗案内をしている。
「そろそろ、行かないと。」
おでこにキスをして、私をそっと離す。
「…愛してる。」
まるでドラマみたい、と
ヒトゴトのように思った。
ジャケットと小さな鞄を手に
行列に並ぶ優介の後ろ姿は
涙でにじんで見えた。