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ただ一つの心を君に捧げる

第1章 プロローグ


「そこのご婦人、一匹どうです?うちの奴隷は活きが良いですぜ?夜の方もそりゃあ、絶倫でございます」

ヒヒヒ、と下品な笑いを響かせて奴隷商の男が近付いてきた。白いレースで隠された顔を覗き込もうとしたその男から私を隠すように、大きな男が私を背中に庇う。
執事のベルクールだ。

「失礼、主にこれ以上近付かないで下さい」

鍛えられた褐色の肌に白い長髪を一つに纏めた姿。鋭い瞳は綺麗な緑色で、彫りの深い顔は作り物の様に整っている。しかし女性達にも騒がれそうな容姿だが、その綺麗な顔も頬に走る大きな傷が台無しにしていた。そんな迫力のある彼から見下ろされた奴隷商の男は、尻込みしながらペコペコと頭を下げた。

「マリア様、参りましょう」

蔑むように奴隷商を見下ろしたベルクールが私を先に促す。促されるままに私はゆっくりと歩き出した。




「このっ、くそガキが!!」

大きな怒鳴り声と共に、肉を殴る鈍い音と物が倒れる大きな音がした。

「誰がお前のような役立たずに飯をやってると思うんだ!」

音がした方へ目を向けると、 奴隷商が奴隷を殴り付けた様だった。殴られた奴隷は力なく倒れ、積み上げられた荷物にぶつかったのだろうその中に埋もれている。

「何時かは売れると、殺さずに面倒見てやってりゃ調子に乗りやがって!」

倒れ込んだ奴隷を男は容赦なく蹴り続ける。奴隷は蹴られてひっくり返っても慌てて起き上がり、額を地面へ擦り付けて謝罪の態度を示した。それでも容赦ない蹴りが浴びせられる。

「うぐっ、うッ」

「誰がお前みたいな縁起の悪い奴を拾ってやったとっ…言ってみろ!誰のお陰で生きていられるんだ?!」

体を守ろうとしているのか体を丸めた奴隷の、油でベトベトの髪は黒かった。

「っ、うッ、そ、れは、親方、のお陰、です」

以前からも乱暴を受けていたのだろう、僅かに上げた顔は腫れ上がり唇も切れていた。その腫れた肉の合間から見えた目が黒く輝いている。

「呪われた一族ですか…まだ居たのですね。…マリア様、もうすぐ迎えの馬車が来ます。参りましょう」

私の後ろに控えたいたベルクールが立ち止まった私を促したと同時に私は歩き出した。

「マリア様?」

戸惑ったベルクールの声が聞こえる。
私は奴隷商の足元に蹲る奴隷の側に屈み微笑んで手を差し出した。

「貴方、私の元に来なさい」
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