第6章 昼休み。(伊月俊)
「あれ、ちゃん?」
「あ、伊月先輩」
「珍しいね、一人でお昼なんて」
いつも女友達と三人でお昼は食べているって前に言っていたが今日は一人で中庭で食べている。
通り掛かってそれを見つけた伊月は気になって声を掛けた。
「伊月先輩~…っ、聞いてくださいよ…いつも食べてる二人とも彼氏が出来ちゃって…お昼は一緒に食べるんだそうです」
「あー彼氏か!だったら俺と食べる?」
「え?良いんですか?!嬉しい!」
手放しで喜んでくれると誘った方も嬉しくなる。
伊月は購買のパンを片手にの座っているベンチの隣へ腰掛けた。
「あ、ちゃんお弁当なんだ?」
「はい、料理は好きな方なので」
「おー!じゃあ合宿が楽しみだな!」
「いやいや、そんな凝った物は作れないですよ!」
そんな話をしながらはお弁当箱を開ける。
卵焼きに野菜の肉巻き、綺麗にむすばれたオニギリ。
彩りにミニトマトとブロッコリーも添えられていてなんとも食欲を唆るお弁当だった。
「すげ、うまそーだな!」
「少し食べますか?」
「え、それは悪いよ…食べたいけど」
思わず本音を漏らす伊月にはクスリと笑ってお弁当箱を差し出した。
「どれでも好きな物をどうぞ」
「ホントに…?え、と、じゃあ…卵焼き貰って良い?」
「はい、もちろん」
とは言え箸を持っていない伊月はどう貰おうか悩んでいると、目の前にスッと卵焼きを差し出される。
「はい、伊月先輩」
「………ちゃん?これ…もしかしなくても食べさせてくれるって事…?」
「はい、伊月先輩お箸持ってないですし、手掴みだと汚れちゃいますからね。どうぞ!」
「…………生きてて良かった」
「え?何ですか?」
拳を握り締めて呟いた伊月の言葉はには聞こえてなかったが、は特に気にする事なく伊月の口元へ卵焼きを運んだ。
一口サイズの卵焼きを頬張ると、口に広がる出汁の香りとほんのりとした甘み。
「美味しい!」
「良かった!」
の作った卵焼きだからか。
が食べさせてくれた卵焼きだからか。
美味しい理由は多分どっちも。
卵焼きと一緒に一時の幸せを伊月はグッと噛み締めていた。