第52章 夢幻〜信長〜
夜になり天守の窓から安土の城下を見下ろす。
毎日ここで城下を眺め酒を飲む…
少しだけ眠り、飛鳥の部屋の前の中庭に行く…
これが日課…
だが今日は飛鳥が天守に来る。
飛鳥が来る日だけは褥で朝までゆっくり眠れる…
夜明け前に中庭に行くこともない…
数ヶ月飛鳥が訪れなかった天守
無理やり連れ込む事は容易い…
だがそれに何の意味がある
飛鳥の意思を無下にし、連れてきたところで心はここに無かったはず…
初めて心までも手に入れたいと思った女
無理矢理ではなく飛鳥自らの意思で、側に居て欲しい…
『くっ…この俺をここまで狂わすとはな…』
思わず笑ってしまう…
城下を見ながら飛鳥の事ばかり考えてると
トントンと襖が叩かれる
「飛鳥です」
『あぁ…入れ』
飛鳥が部屋に入ると信長から少し離れたところに座る
「城下を眺めていたのですか?」
飛鳥を見つめ手招きをする。
『側に…』
飛鳥が信長の隣に腰掛ける
しばらく二人で城下を見ていると飛鳥が呟く
「信長…どうして問い詰めなかったんですか…?」
呪術にかかっている間、信長は飛鳥を問い詰めたり、無理矢理現実を見せようとはしなかった。
飛鳥の話を聞き、自分との仲については一言も言わなかった。
『…俺がそれを言って、貴様が戻ったとしても…飛鳥自身で整理を付けなければ、またフラつくてあろう?』
飛鳥の頬をそっと触りながら優しく呟く
「っ…信長様には…全てお見通しですね」
頬を触る信長の手に飛鳥の手が重なる
『今まで俺は欲しいものは力尽くでも手に入れてきた。…だが、飛鳥だけは俺の元に心が無いのは許せぬ…』
優しく口付けする。
「んっ…私の心は信長様の物です…もう惑わされることはございません…」
その言葉に微笑みながら飛鳥を横抱きにして褥に連れていく…