第24章 愛惜の憂苦 〜信長〜
広間…
飛鳥には時折信長の隣に座って終始微笑んでる仕事がある。
諸国の大名が挨拶に来るとき。
織田家ゆかりの姫としての仕事。
いつもは着ない豪華な着物に身を包み、信長の隣で微笑む。
ただひたすら微笑む。
(話が難しい…全然わかんない…)
しかもちょっと足も痺れてきた…
話が終わると大名が去った広間…
いつまでも座り続ける飛鳥に訝しげな顔で信長が告げる
『いつ迄そうしておる』
「もう少しこうしてます!」
しっかり前を見据え答える飛鳥の足はすでに痺れて立ち上がれない
信長が広間を出るまで我慢しようと思っていた
くっと笑い飛鳥の足を触る
「っ!ダメです!」
触る信長の手を制して痺れに耐える
『…痺れておるのだな?くっ…仕方のない奴だ』
そう言って飛鳥を横抱きにして天守に戻る
信長の首に腕を回しながら飛鳥は不安が募る
「信長様?さっきの話…戦が始まるのですか?」
殆ど内容はわからなかったが、【戦】の言葉だけはわかった。
『あぁ…だが、案ずるでない』
そうは言うが戦のない時代に生まれたから【戦】って言葉だけで不安になる。
「信長様も行くん…ですか?」
その言葉に信長は返事をしない。
わかってた…
天下統一を目指す信長。
歴史の教科書でも勉強した。
わかってても自分の愛する人が戦に出るのは不安で仕方ない…
天守に戻る頃には足の痺れも治り、肘掛にもたれる信長にお茶を入れる。
「着替えてきますね?」
豪華な打掛はなかなか慣れず、いつもの小袖に着替えるために屏風の裏に移動する。
(でかい戦になるのかな…行って欲しくないけど、大望の為だもんね…)
帯を解き、着物を抜くと肩の力が抜ける
『飛鳥…』
振り向くと信長がすぐ目の前にいた
「あのっ、まだ着替えが…」
襦袢だけの飛鳥を抱き締めて耳元で呟く
『飛鳥…其方のために必ず帰る…案ずるでない…』
そっと口付けされる
信長は飛鳥の前だけで時折こうやって優しく接してくれる
「はい…」
そう呟くも不安は消えて行ってはくれなかった…