第3章 入寮二ヶ月め☆
男性とのかかわりが今までぜんぜんなかったので、よくわからないのですが、ハグって普通にされるものなのですかね?
とにかく突然ハグされることが多いこのごろ。
たとえば狭い廊下をすれ違う瞬間、当たり前のようにハグされたりする。いちいちドキドキすることなく、そのことに慣れてしまった私がいた。
「あ~はいはい」くらいになってしまったのだ。
久しぶりに会った(ほぼ)女子高時代の友達にその話をしたら、うらやましがられるのと同時に、私はおかしいと言われた。
「そんなイケメンにハグされたら、私顔見合わせるたびに恥ずかしくて意識しちゃうよ!」とのこと。
私も最初はそうだったけど、なんだろう。もう家族っぽい感じになってしまって、そういうときめきがなくなってしまった。あとは、異性として見ていない、というのが大きいかもしれない。
長く恋などしていないので、すっかり枯れてしまった、というのが目下の悩みでもある。
と、いう話を九兵衛くんにしてみた。
「う~ん…。僕もあんまりわからないな…。すまない」
すっごくまじめに考えてくれたらしく、長い沈黙のあとそう答えた。
九兵衛くん男嫌いだしね。
「恋か…」
ずいぶん悩ませてしまったようだ。
難しい顔をして考えている。
「なんの話をしてるの?」
同室の山崎さんが、大きすぎる仕切りの隙間から顔を出した。
「あ、山崎さん。
今、恋とはどんなものかしらという話をしていたのですよ」
「なにそれ。哲学的な話?」
「それすらわからない」
身じろぎもせず考えている九兵衛くんを見て、私と山崎さんは笑ってしまった。
「恋は頭でするものじゃないって、どこかのモテ男が言ったよw」
なるほど、さすがどこかのモテ男ww
「あ、そうそう。そのどこかのモテ男が宮部さんに用があるみたいで、あとで部屋に来てほしいって言ってた」
「そうなんですね。なんだろ…」
まだ悩んでいる九兵衛くんをそのままにして(ひどい)、モテ男…もとい土方さんの部屋に行った。
部屋の前では、相変わらず土方さんが沖田さんに怒鳴る声が聞こえた。またなんかやらかしたな、沖田さん。