第5章 平穏な、日々
旅行の次の日から私達は普通に仕事を行なった。
仕事以外はできるだけ灰羽くんに関わりないように生活した。
残暑の残る9月から秋に季節が変わるように、わたしもうまく気持ちを切り替えて生活できている。
そう思ってた。
「……文乃?」
急に耳元で声がして体がびくりとはねた。
それと同時に足元に響くぱりんという音。
「あ…」
動こうとすると、声をかけてきた張本人…孝支が私を制止させた。
「コップの破片踏むと悪いから文乃はそこでじっとしてて!」
ぱたぱたとスリッパを鳴らしながら掃除用具を取りに行く孝支。
私はその場にしゃがむと大きな破片を少しずつ集め始めた。
お気に入りだったんだけどな。
使えなくなった粉々のマグカップの、辛うじて残っていた底の部分に破片を集めていれば掃除用具を持った孝支が戻ってきた。
「文乃そのまんま動くなよー!」
箒で履いた後、孝支曰く「ばあちゃんがやってた」らしい濡らした新聞紙を床に巻き、細かい破片を取る作業が終わり、やっと私はその場から解放された。
「…文乃、何かあった?最近やけにぼーっとしてる。」
心配そうな孝支の声。
”何”かはあった。
けれど、それを言ったら終わりだ。
だから私は笑顔で言う。
「仕事、ばたばたしちゃってて…疲れてるみたい。
心配かけてごめんね?」
その笑顔は孝支を余計に心配にさせてしまったみたいで、孝支は私の腕を掴んでベッドルームに入って行く。
「え?あの…孝支?」
「今日は買い物に行くって行ってたけど…
予定変更!家でゴロゴロしてゆっくり夕飯の買い物行って終わり!だから…」
言葉を止めた孝支はベッドに座ると、自分の横をぽんぽんと叩く。
「午前中はゆっくりするべ?」
にかりと笑う孝支に心がふわりと暖かくなる。
「ありがと、孝支。」
私が隣に座ると、孝支はいたずらっ子のように笑って私をベッドに押し倒す。
そしてぎゅっと抱きしめると優しく髪の毛を梳いた。
「たまにはのんびりするのもいいべ?」
「….うん。」
孝支の体温があったかくて、私はいつのまにか眠りに落ちていた。