第3章 夏
何度もなんども交じり合った。
何度も欲を放ちあった。
このままずっと一緒にいれたらどれだけうれしいか。
そう思えば思うほど、無情にも時は過ぎ、就業の時間になった。
「帰らなきゃ。」
そう言って床に落ちた下着を身につける。
スカートを履き、オフショルダーのブラウスを着て髪を整えようとした時、背後からがばりと灰羽くんが抱きつく。
「椎名さんいつもそればっかり。」
「…何が?」
そう聞くと灰羽くんは寂しそうな声で呟く。
「いっつも帰らなきゃ…って。」
ぎゅっと抱きつく灰羽くんの腕をとんとんと叩くと腕が緩む。
その隙に体の向きを反対にし、私は自ら灰羽くんの胸に飛び込んだ。
「そうね。だって私には帰る家があるから。」
待ってる人がいるから。
そう言おうとして、やめた。
これは今言うべきでない。
「鍵閉めて帰りましょ?今日は電車だから駅までは一緒ね?」
口元を笑みに変えると灰羽くんもぎこちなく笑う。
セックスの痕跡を残さないように確認してからオフィスを出て鍵を閉める。
鍵を指定の場所に置き、灰羽くんと一緒に歩き出した。
「文乃!」
背筋が凍った。