第15章 離婚、する
「あら、パパが到着ね?」
担当してくださった助産師さんがからからとカートを抱えて部屋に入ってくる。
「あっ!はじめましてっ!」
ぺこりと頭を下げたリエーフくんが頭をあげると、カートはすぐそばにきていて、小さく声を上げていた。
「っ!」
リエーフくんはそれ…もとい産まれた子供を目視すると勢いよく私を見る。
「抱いてあげて?」
こくり、頷いた彼は助産師さんに教わりながら危なっかしく抱っこをする。
彼の長所である長い手足をばたばたさせ、うまく抱っこしようと戸惑っている。
その姿がおかしくてくすりと笑うと、リエーフくんは困り顔で私を見た。
「ねえ、リエーフくん?名前はもう考えた?」
そう問うと、彼は抱っこしている子供の顔をじっと見つめ、笑う。
「はい。今決まりました。」
「なんて名前?」
そう問えば、彼はふわりと笑って唇を動かす。
抱き上げた子に聞かせるように声に乗せた名前は、すうと私の耳にも入ってきた。
「…素敵。」
「でしょ?」
自分でも何度か呟いてみたけれどすごくしっくりくる。
「この子はずっと幸せでいて欲しい。」
そう言いながら彼は子供を私に抱かせ、メモを取り出す。
そしてさらさらとペンを走らせるとそれを私に見せた。
"支歩"
そう書かれた名前。
ぱっと顔を上げれば、彼は笑う。
「支え合って、歩む、で"しほ"。
どう、ですか?」
その字は
私が支えられなかった人の文字。
ほろりとこぼれたひとしずく。
つたってつぎの"支"におちる。
ありがとう。
私を愛してくれて。
ありがとう。
私を許してくれて。
ありがとう。
わたしを、母にしてくれて。
「いらっしゃい、しほ。
私たちのところに来てくれてありがとう。」
これからあなたを沢山沢山愛するわ。
沢山支えて、沢山の道を歩ませていく。