第15章 離婚、する
お店自慢のもつ鍋、女性に人気のカマンベールチーズのフライ、お出汁の効いただし巻き卵、味のしみた肉豆腐。
追加で頼んだ串物を食べていれば、なくなるお酒。
それに気づいた灰羽君がすかさず注文してくれたのは"ロブ・ロイ"
さっきから何故カクテルばかりなのだろうか。
度数の強めなロブ・ロイを一気に飲み干すと、彼はわたわたとし始める。
「灰羽君?今日誘った用事は何?」
そうストレートに問えば、あ、とかう、とか声を出し、観念したかのようにはぁぁと長く息を吐いた。
「俺、3月に入ってから菅原さんと飲んだんです。」
ああ、そうか。
きっと私は罪悪感でいっぱいになることがわかってるから。
だから孝支が灰羽君に言ってくれたのね。
「その時に聞きました。
菅原さんが転勤になることも、椎名さんがついていかないってことも。
離婚したってことも。」
「そうよ。でも、私はあなたと付き合うつもりはないわ。」
そう言えば、灰羽君は鞄をごそごそ漁り始め白い封筒を出す。
そしてそれをす、と私に差し出した。
「これ、菅原さんから。」
受け取れば、封筒には孝支の字で"文乃へ"と書いてある。
開けてみれば、見たことのある几帳面な文字が便箋に並んでいた。